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わごいちの作り方⑲どこまで続くか紙のお金

 電子マネーが広く普及した現代において、わごいちはいまだに現金で施術代を頂いています。この先どうなるかわかりませんが、できるだけこのままいきたいと思っています。その理由を今回書いてみます。

 

 わごいちを開業したころ、整体業界は現金支払いが主流でした。よほどの大手でもない限りクレジットカードも使えなかったはずです。しかし実を言えば、当時の私は現金に触れるのが少し苦手でした。施術する時、その人の苦しさを少しでも減らしたい一心でほぐします。しかし施術が終わり、お会計の時になんとなく「お金のために仕事をしているの?」というかすかな疑問が頭をよぎるのです。

 

 もちろん実際にそういう一面はあるでしょう。家族を養う、院を経営していく、そのためにお金は必要です。しかしその反面、お金には魅力というか魔力が確かにありますね。なにかこう、それまでの無心の施術が、お金に触れるたびに少しずつ邪心が這いこんできそうな気がして、怖さを感じる時があるのです。

 

 たまたまそんな時に宮尾登美子さんの小説『松風の家』を読み、茶道の家元がお金に触れた手を井戸水で洗うというシーンが描かれていました。ああ、自分だけじゃないんだとなんだかホッとしたこともありました。

 

 そんな感じで若干の躊躇のようなものを感じながら、現金主義を続けてきました。ちなみにクレジットカード決済をする気はまったくありませんでした。決済手数料は結局施術代に乗ってきますから。

 

 そんな中、風向きが変わったのは、本当にここ1,2年です。あっという間に電子マネーが普及しましたね。「現金を使うのは、わごいちだけです」と笑いながらお支払いされる方。財布を持ち歩く習慣がなくなって、お支払いの時に「あっ」と慌てられる方、最近ちょくちょくおいでです。時代の変化は本当に早いものです。

 

 ただ変化したのは時代だけではありませんでした。実は私の内面でも確かな変化が生まれていました。昔はお金に触れることに少しためらいがあったのに、今はありがたいな、うれしいな、と思って施術代をいただくことができるようになりました。「〇〇円頂戴します。ありがとうございます」と心底からお礼を言えるようになりました。これはわごいちのお客さんに教えてもらったのです。

 

 新札を用意してお支払いくださる方々。あらかじめ施術代を封筒にいれてお持ちになる方。そのような習慣さえ知らなかった私にとって、大きな発見であり学びでした。お金のやりとりに互いの感謝を込めることもできるんだと、私はここで教えられたのです。値切って出し渋って算盤はじいて・・・とは全く違う世界がここにはあったのです。

 

 小説もタブレットで読む時代。お金もスマホで決済処理する時代。紙は神でもある、という人もいます。手触りを大事にする整体院であるからこそわごいちは紙の奥にある人の気持ちのやりとりを大事にしていきたいなと今、しみじみと感じでいます。(つづく)

 

 

 

三宅弘晃

 

現金と封筒
大事な相手へお金を渡す時には封筒に入れる。わごいちのお客様に教えてもらった日本ならではの心遣いです